私はこうしてプロになりました。小谷野謙一 編

作曲家 小谷野謙一
 

音楽少年の無謀な挑戦

「音楽が大好きだけれど、ストイックなピアノの練習は嫌い・・ドラムとシンセサイザーが大好き」という音楽少年だった私は、高校時代にはバンド活動に熱を入れて、漠然と「プロへの道」を夢見ます。忘れもしない高校2年の夏のこと、進路指導の先生に「進学どうする?」と聞かれた私は、とっさに「音大に行きます!」と言い放ったのでした。それが親の耳に入り、すったもんだのあげく、母の友人に当時芸大の作曲科の学生だった方(恩師)を紹介していただきます。何事も口に出して言ってみるものです。

本格的に作曲の勉強を開始

本格的に音大の受験勉強を開始して、それまでの自分が如何にいい加減だったかを思い知らされます。プロになるなら「知らない」「出来ない」「解らない」の不安を抱えてやって行くわけにはいかないと切に思ったのでした。その後、多くの素晴らしい先生方に恵まれたこともあり、数年後に
東京芸大の作曲科へ入学を果たします。しかし、悲しいかな芸大に受かった程度ではプロとして通用しないという厳しい現実を思い知らされるのです。
「曲を作れる」という事と、「仕事をする」という事は同義語ではありません。
「好きな物」を気ままに作るのと、「求められる」という事は全く別次元の事だと気が付いたのです。しかもプロとなれば、クオリティを確保しながらコンスタントに曲を生み出す力が必要になります。

裏方仕事がスキルアップの糸口に・・

いろいろと悩みながらも、大学在学中にした仕事が「楽曲の耳コピー(譜面作り)」と「打ち込みデータの制作」でした。裏方的な仕事ですが、この経験によって様々なポピュラー楽曲のアレンジや、曲作りの仕組みを知り、またコンピュータでの打ち込み技術を身につけました。これは大学では学べない貴重な体験でした。
いろいろなアレンジや楽曲を知っていて、打ち込みができて、楽譜も書ける・・となると、裏方仕事を発注して下さる方(つまりは音楽業界の方)から「じゃ、こんな事やってみる?」とシーケンス・ソフトや音源のデモ曲制作のお誘いなどいただくようになります。
時は1990年代初頭、人気ゲーム機が各社からリリースされ、友人のつてで次第にゲームのBGM制作の仕事も増え始めました。

口コミでDTM関連の執筆業。

この時期コンピュータとコンパクトな音源(GM規格等)を使ったDTMブームが起きます。
「曲作りや音楽理論」「コンピュータによる打ち込み」「電子楽器のオペレート」の3つが出来る人という事で紹介されたのが、DTM関係の雑誌のお仕事でした。ここで私は生まれて初めて「原稿」の書き方を学びます。打ち込み解説、新製品のレビュー等、さまざまな記事の書き方を仕事の中で修得する事ができたのです。この事が現在の雑誌連載や単行本の執筆に繋がっています。

提供した楽曲エピソード〜プロとして大事な事は?〜

プロとして仕事を繋げていく上で大事にしていることは、「発注者の求めているもの」を如何に的確に把握するかです。なぜなら、どんなに想いを込めて作っても、どんなに時間を掛けて苦労して作っても、それが相手が求めるものでなければ全てが無駄になってしまうからです。

   ポケパーク2〜ビヨンド・ザ・ワールド〜
 NintendoWiiのポケパークシリーズのBGM制作は、
曲作りに力を入れた事はもちろんですが、最も大事にしたのは
細心の注意で発注書を読み、打ち合わせで相手がどんな世界を
求めているのかを慎重に読み取る事でした。その上で、手持ちのオーケストラ音源を駆使して如何に「生演奏」に近づけられるかにチャレンジしています。

ポケモンTVシリーズのオープンニング・テーマ「BestWish!」のアレンジは、作曲者の意図をしっかりとくみ取り、どれだけ期待以上のサウンドを作れるかが試された仕事でした






  MISIA:「忘れない日々」
MISIAの名曲「忘れない日々」のライブ用オーケストラ・アレンジ(星空のライヴVJust Ballade MISIA with 星空のオーケストラ2010 [DVD]の6曲目に収録)では,
「ハイセンスな豪華さ」を求められ、それをどう表現するかが
カギでした。
これは限られた編成(フルート1本、オーボエ1本、ホルン2本、ハープ、弦8/6/4/4/2、リズム隊)で、如何に豪華なオーケストラ・サウンドを生み出すかに腐心した仕事で、聴き直す度に感慨深いものがあります。
 

最後に

プロの世界は「クオリティ」「手際の良さ」「勘所の良さ」などを高い次元で求められる厳しい世界です。しかし、それだけにうまくいった時の歓びは何にも代え難いものがあります。また、困難なプロジェクトを支え合った仲間は強い絆で結ばれた貴重な友人となるでしょう。このコラムがこれから音楽家を目指す方々の何らかのヒントになれば幸いです。
 

小谷野氏のこれまで手がけた作品リストは、こちらから見られます。
  • マスタードとは?
  • 回答者紹介

COLUMN

Backnumber

2022.01.02

サプリ記事

新作詞講座⑦〜5W1Hを使おう〜

プロが教える!​新作詞講座 第7回...

2021.08.05

サプリ記事

新作詞講座⑥〜フルサイズの歌詞を書...

プロが教える!​新作詞講座 第6回 ...

  • 会員登録

質問カテゴリ(下記カテゴリから1つをお選びください。)

楽器

音楽制作・録音

音楽活動・進路・就職

その他の質問

回答ミュージシャン

回答ミュージシャンを選んでください。

質問する

閉じる

この質問の閲覧には有料会員の登録が必要です。

有料会員登録

> 有料会員登録の流れはこちらから

会員ログイン

Email
PASS

> 新規登録はこちらから

閉じる

質問するには有料会員登録が必要です。

Email
PASS

> 新規登録はこちらから